人生相談崩壊! 放火魔なのに異世界転生!【たらい回し人生相談】
【たらい回し人生相談】〜ヤバいやつがもっとヤバいやつに訊く〜 連載番外編 第9回
気がつくと僕は、日本人読者が漠然とイメージするファンタジー的な神殿の中にいた。あの古代ギリシャ様式の神殿みたいなやつだ。大理石でできていて柱がいっぱいあるやつ。
「ここは……」
起き上がった僕の目の前には、これまた日本人が漠然とイメージする白人女性一般みたいな存在が、なんか布を巻きつけたみたいなタイプの服をまとって現れた。なんとなく日本のサブカルチャーで共有されている西洋の女神のイメージだ。
「あなたは死にました」
「あっはーい」
「ドライな反応ですね」
「そういわれましても」
就活生でもある僕は、とりあえず礼を失しない程度に目の前の不審人物に対応した。
「話が早くて助かります。あなたには異世界に転生していただきます」
「異世界に転生?」
「はい」
「あのどっかの小説サイト的なやつですか」
「そうです」
「なんか特殊なスキルとかが身につくようなやつですね」
「よくご存じですね」
僕は少し考えた。
「……あの。転生とか言われても困るんですが」
「あなたは死んでしまったのです。残念ですがもう生き返ることはできませんよ」
「そうじゃなくて」
「はい?」
「僕はイスラム教徒なので、仏教的な輪廻転生はお断りします」
そう僕はきっぱりと言った。
話がややこしくなるから省略していたけど、いちおう僕、Nくんはイスラム教徒なんですよね。こういう異教の神殿みたいなところで異教っぽい存在に何か言われても僕の心には響かない。
「お断りしますと言われても困るのですよね。わたしも仕事ですから」
「譲れないものもありますから」
「あなたに選択権は……ええと。とりあえずお話だけでも」
「そうですね。とりあえずお話をうかがいます」
僕はビジネスマナーを発揮した。さすがに話も聞かないというのは失礼にあたると考えたからだ。このような常識的な判断ができる僕を、生前、雇わなかった企業の経営陣には本当に見る目がなかったと言わざるを得ない。
「とりあえずこれをご覧ください」
そう言うと、その異教の存在は空中に映像を投影しはじめた。いわゆる魔法だろうか? 超常的な技術だ。プロジェクターとパワーポイントぐらいのすごさはある。投影された映像には、古い西洋の街並みみたいなものが写されていた。
「あなたにはこの中世ファンタジーの世界に転生していただきます」
「でもこれ、中世っていうより近世の街並みですよね?」
「はい?」
「和風ファンタジーって昔の西洋をかなりごっちゃにしてるんですよね。地域とかも……日本で安土桃山と江戸時代を混ぜこぜにしてたらヘンじゃないですかー。自分の文化だと気付くんですよね。僕そういうの気になる方なんですよ。いちおう大学出なので」
「うっさいわね!」
女神がキレた。
「もういい! あんたの意思など知ったことではない! さっさと転生してもらう!」
「他人の宗教観をいったい何だと思っているのですか? ただちにやめてください」
僕の礼儀正しい抗議を無視し、その無礼な異教徒は空中にスマホの画面のようなものを投影した。古代ギリシアの文化レベルなどしょせんこんなものなのかもしれない。ギリシア神話を見れば彼らにあまり期待できないことはわかる。
「えーと。あんたのスキルは『放火』……?」
異教徒は怪訝な顔でこちらを見た。
「放火……?」
僕はにやりと笑った。
「時々納屋を焼くんです」
「は……?」
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ところでイラスト代は当然出るんですよね?
(by ミスター発達)